2018年3月にリリースされた「fairy engine」。MAMORIOのプロダクトとは一線を画す、Google HomeやAlexaといった複数のサービスに対応したプラットフォームとなる「fairy engine」は、どのような思いで開発され、どんな未来を描いているのでしょうか?代表の増木大己、CDO神谷郁、エンジニア松本和也が語りました。
「fairy」は人々の生活に寄り添う“妖精”
2018年3月、MAMORIOから新サービス「fairy engine(フェアリー・エンジン)」が誕生しました。fairy engineはGoogle HomeやAlexaなどに対応し、「財布はどこ?」などのユーザーの質問に答えるプラットフォームとなります。
fairy engineは従来のMAMORIOがアプリを通じてモノの場所を可視化するものであったのに対し、「声をかける」「チャットする」という目に見えない方法でMAMORIOにアクセスします。fairy engineのアイディアは、MAMORIO代表である増木大己(ますき だいき)が見たある出来事から生まれました。
増木 「私の妹が、海外の新婚旅行でパスポートを忘れてしまいました。大切なイベントなのに、キャンセルになってしまって……あの日いつもと何が違ったかというと、いつもなら“忘れものない?”と確認してくれていた母が留守だったことです。さらに、新しいものやアプリに詳しくない妹は、MAMORIOを利用していませんでした。あの時、母のように確認してくれる存在がいたら良いのでは、と思ったのです」
fairy engineが想定するユーザーは、MAMORIOに限らずアプリの使い方に慣れていない方々です。スマートフォンへのアクセスや新しいアプリの利用が少ない人でも、簡単に使えることが最終的な目標でした。
増木 「“fairy”は妖精のイメージで、“虫の知らせ”などの言葉からも着想を得ています。妖精のようにユーザーのそばに寄り添って、なくしものを防いでくれる。そんな存在を目指しました。MAMORIOは『なくすを、なくす。』をミッションとしてハードやアプリを開発していますが、必ずしもMAMORIOを利用する手法はアプリじゃなくてもいい。その答えのひとつが、fairy engineです」
使いやすさを追求して見えた、チャットという答え
増木 「モノのデータをどのように引き出すのか?その方法を突き詰めたときに、テキストだけ、音声だけでも成立するという答えにたどり着きました」
MAMORIOは高度な技術に支えられるIoT商品でありながら、求めるユーザーはなくしものに困っている一般的な消費者です。ユーザーのなかには高齢者やIoT商品に詳しくない方も含まれるため、使いやすさにこだわるプロセスでは“シンプルにすること”が不可欠でした。
増木 「なくしものを見つけることって、突き詰めれば位置がわかれば良いんです。アプリを起動してタップして……という操作があるより、一声かけてわかるほうがずっと使いやすいですよね」
MAMORIOのCDOを務め、fairy engine開発プロジェクトのひとりとしてデザインやプロジェクト管理に携わった神谷郁(かみや いく)は、ユーザー層そのものが広がる可能性に目を輝かせます。
神谷 「声をかけるだけでモノの居場所がわかるようになれば、目に障害のある方がMAMORIOを利用できるようになる、というお話をユーザーの方からいただいています。あるいは、自転車に乗っているあいだなど、今までアプリからではアクセスしづらかったシーンにも対応できたら便利ですよね。fairy engineを通じてMAMORIOをもっと使いやすく感じていただければと思います」
使いやすさ、アクセスしやすさ。この軸は、fairy engineがプラットフォームとして複数のサービスに連携が可能であることへのこだわりにも息づいています。
エンジンであることにこだわったのは、描いた未来があったから
fairy engineの開発を担当したエンジニアの松本和也(まつもと かずや)は、増木のアイディアを元に2017年の夏ごろから開発に携わっていました。
松本 「FacebookメッセンジャーやLINEへの対応は技術的にさほど難しくなかったのですが、開発開始当初、Google HomeやAlexaなどのAIスピーカーはまだ普及していませんでしたから、新しい挑戦だなと感じましたね。正直、音声対応への壁は感じました」
挑戦のなかで課題は多く抱えつつも、描く未来のためには複数対応を前提とした開発が必要でした。
松本 「MAMORIOが〇〇に対応しました、ではダメだったんです。最終的に多くの方が使いやすいものを目指すならば、エンジンである必要がありました。だから多少の難しさはあっても、将来に負債を抱えないために複数対応を前提とした開発を進めました」
今までの開発経験を活かし、開発スピードを鈍らせることなく課題解決の精度を調整しながらゴールを目指しました。
松本 「丁寧に作れば作るほど時間がかかりますが、80%ほどの精度でスピーディに完成を目指す……難しいことですけど」
神谷 「松本さんはあらゆる課題を素早く解決してくれていたので、スピーディな開発ができました。ちなみに、社内のGoogle Homeが来客を知らせてくれるようになったのも、松本さんのおかげです」
松本 「fairy engineの開発経験を活かすことができました。iPadでの受付システムだと、ときどき来客に気がつかないこともあったので……Google Homeがしゃべりを覚えてくれたおかげで、解決できましたね(笑)」
fairy engineの開発を通じて、松本は音声で操作することへの可能性を感じ始めました。
松本 「はじめは“音声ってそこまで使いやすいのか?”と半信半疑でしたが、実際に自分がfairy engineを開発するなかで、画面を見る必要性がない操作は意外と多いことに気がつきました。特に、なくしものを探してほしいなどの動作が決まったものについては、音声のほうが操作しやすいですね」
今後ますます消費者に普及するであろう、音声入力やチャット入力への複数対応。未来のユーザーにMAMORIOが寄り添うために選んだエンジン開発という挑戦は、ユーザーだけでなく、開発したメンバーたちにも新しい発見を生み出したのです。
ユーザーを第一に考え、セッションのように開発する
fairy engineを無事にリリースしたチームメンバーですが、これはあくまでスタートです。
神谷 「今後はfairy engineの普及を通じて、よりMAMORIOが自然になっていけば良いなと思っています。Google HomeからAlexa、あるいはAndroidのGoogleアシスタントから……連携を通じてfairy engineを利用する方が増えていくと思います」
ユーザー数を毎日チェックしている神谷は、予想以上にユーザー数が上昇していくことに喜びます。
神谷 「職場で“あれ?ハサミどこやったっけ?”と訊いたらfairy engineを通じてGoogle Homeが答えてくれたり、外出するときに“財布を持っていないですよ”って教えてくれたり……もっと身近なものとしてMAMORIOが利用されるようになったらいいなと思います」
開発ロードマップを公式サイトに公開し、次々と課題解決をしながら、fairy engineはユーザーに寄り添う将来の姿に向けて進化し続けています。
松本 「少人数での開発だからこそ、スピードが落ちないですね。加えて、開発している人同士テーブルが近いので、話しやすい環境です」
増木 「MAMORIOの開発環境はオーケストラよりジャズのセッションに近いです。誰かが指示して一斉に動くというよりは、お互いの音を聴いて、もっとこうしよう、とリアルタイムで改善していくスタイルですから」
fairy engineだけでなく、さまざまなプロジェクトを並行して進めているMAMORIOでは、求める人材にある共通点がありました。
神谷 「MAMORIOでは、常に“こういうもの作れるかな?”という好奇心がある人が必要ですね」
松本 「“やれ”から動くのではなく、“やりたい”で動ける人と働きたい。リリースまで持っていくためには、いろいろなことに挑戦できる気持ちが大切です」
増木 「今回のfairy engineの開発も、私が思い描いたものを具体化しつつ、さらに2人がより良いと思う方向へ育ててくれたと思っています。……改めて、僕は何もやらないほうが良いなと思いました(笑)」
冗談っぽく笑う増木ですが、そこには2人に対する信頼が垣間見えました。
fairy engineの開発を通じて、新たな形を見せつつあるMAMORIO。まずは使ってほしい。より多くの人に、より多くのシーンで。fairy engineの成長は、ユーザーの方からのご意見や感想を大切にしながら、これからも続きます。