財布のトレンドや進化の背景には、社会問題や技術進化といった時代の流れを見ることができます。では、コロナ禍という大きな時代の変化を経て、財布の需要はどのように変わったのでしょうか。落とし物の研究を続けるMAMORIOラボの視点から、アフターコロナの落とし物事情や財布のニーズについて考察します。
財布の機能性と形状の歴史
どんな財布をもつか……その判断基準は人によってさまざまです。一方で、誰にとっても財布はお金を持ち歩くためのアイテムであり、消費行動を映す鏡になることは間違いありません。財布のトレンドや進化を紐解くと、時代背景との関係が見えてきます。
財布の形が変わるきっかけ――長財布の場合
さかのぼる17世紀ごろのヨーロッパでは、紙幣が誕生したことによって現在の長財布の原型となる財布が開発されました。それまで硬貨を入れるため袋の形が一般的だった財布が、紙幣を入れやすいフラットな形に進化したのです。
それから約200年後、日本では江戸時代末期ごろから長財布が浸透したそうです。そのきっかけは、当時財布として使われていた巾着の紐部分を切る“巾着切り”と呼ばれるスリ被害が増えたから。もちろん紙幣を持ち歩く用途もあったのでしょうが、防犯目的で財布の形が変わったのは興味深いですね。
カード普及で大容量財布が流行
では、近年の財布の変化にも目を向けてみましょう。大きな変化をもたらしたのは、クレジットカードやポイントカードの浸透です。商品購入時にカードで支払ったり、カードにポイントをつけたりする行為が普及したことで、財布には多数のカードを収納できるポケットがあしらわれるようになりました。さらに、このカードポケットがメイン機能である二つ折り財布も、メジャーになっていきます。
ポイントカードサービスの国内市場規模成長率が高まっていたのが2016年、そしてクレジットカードの発行枚数がピークに達したのは翌2017年のこと。当時の財布のトレンドや売れ筋のデザインを振り返ってみると、カードポケットが多い長財布や、二つ折り・三つ折りの財布が目立ちます。
2020年代は小型財布の時代
そこから2022年現在までの財布のトレンドを追っていくと、一転して小型化が進んでいきます。『ミニ財布』、『ミニウォレット』といったカテゴリに頻繁にスポットが当たるようになり、時代の先端をいくハイブランドのラインナップを見てもミニウォレットが増えています。
この背景にあるのは、電子マネーの多様化とスマートフォン決済の浸透、ポイントカードの電子化といった要因が挙げられます。日本は他先進国に比べてキャッシュレスの普及が遅い傾向がある一方で、SuicaやPASMOの普及により電子マネーの発行枚数は世界最多。国民一人あたりの電子マネーの保有枚数も世界2位であり、乱立する電子マネーに混乱しつつも、スマートフォン決済の急速な浸透が進んでいる国と言い表せるでしょう。
スマートフォン決済が実用面をクリアする社会になったからか、財布を持ち歩くことはファッション感覚になりつつあるようです。財布の最新トレンドをチェックすると、取り外し可能なチェーンがあしらわれたバッグ型の財布などが新たに注目されていることがわかります。ただし、そのサイズは以前流行したものよりも小さくなり、最低限のカードや紙幣が入るタイプのものが好まれています。かたや男性向けの財布は長財布が変わらず人気ですが、以前よりも薄いデザインが増えています。総じて、昨今の財布は薄さや小ささが求められる傾向にあるということは言えるでしょう。
参照:前田真一郎『日本におけるキャッシュレス化 の現状と推進要因の分析』日本クレジット協会 CCR(クレジット研究)
コロナ禍の生活変容と持ち物の変化
現在の財布のことをもう少し深く考えるために、昨今のコロナ禍と消費行動について触れておきます。
ウィズコロナ時代、国内外問わず人々の外出と移動の機会は激減しています。長引く自粛期間に伴って巣ごもり需要が拡がり、ECサイトやフードデリバリーの利用ユーザーが急増。これまでの外出時の消費行動がオンラインで完結するようになったことで、財布を持ち歩く機会は減りました。
コロナ禍の生活において、財布をはじめとした“外出時の必需品”は、以前の生活よりも存在感が薄くなりつつあります。例えば、これまで毎日会社に出勤していた人は、リモートワークが導入されてから通勤バッグの中身を見直したのではないでしょうか。持ち歩くことが習慣化されていた財布や鍵といったアイテムを、一旦バッグの外に出した人も多いかもしれません。
必要最低限の外出を推奨される昨今の生活において、外出時の消費行動は限定されます。生活必需品を買うだけの外出に、財布は必要なのだろうか。スマートフォン決済で十分ではないか。あるいは、そもそもオンラインショッピングで事足りるかも……。そんな考えが頭をよぎる人も多いでしょう。
こうした時代の中で、財布は「当然身につけるモノ」から「特別な外出時にのみ身につけるモノ」へと移行しつつあると考えられます。
財布のこれからとアフターコロナの落とし物予想
外出機会の減少は、落とし物市場にも影響を及ぼしています。警視庁遺失物センターに届けられる落とし物の数は年々増加の一途をたどっていましたが、2020年はコロナショックを受けて3割以上減ったそうです。
だからといって、アフターコロナの時代から落とし物がなくなるかと言えば、そうは言いきれません。むしろ、これまで落とし物に悩んでこなかった人々も落とし物をするようになるのでは、とMAMORIOラボ研究員は危惧しています。
外出機会が減ると、外出時の持ち物は流動的になります。そうすると、ルーティン化していたモノの位置やバッグの中身のランダム性が高くなり、持ち主はモノの位置を以前より把握しづらくなるはずです。
また、自分にとって重要なモノであればあるほど、人はそのモノの位置を意識します。ということは、自分の生活における財布の価値が低くなると、外出時の確認の意識は弱まるのではないでしょうか。それで財布に何も入れていないのであれば問題ないかもしれませんが、最低限の現金やカードを入れているからこそ財布を持ち歩いているはずです。この最低限のモノの重要性は、以前と同じです。つまり、落としたときの失望や対応の大変さも、変わらないでしょう。
MAMORIOラボは、アフターコロナの落とし物の総数は減る一方、一人ひとりの落とし物の悩みは増えるのではないか、と予想しています。外出の頻度や重要度が変容しても、自身の持ち歩くモノを確認する意識を保つために、MAMORIOのプロダクトが活きるのではないか、と考えています。
参照:『東京中から搬入 警視庁遺失物センター 落とし物 時代を映す』東京新聞(2021年6月17日)
財布を守るために、MAMORIOを
MAMORIOでは、2022年現在、財布に用いられることを前提としたプロダクト開発や改善に力を入れています。小型化する財布のトレンドに合わせ、より小さく薄いMAMORIO REや、カード入れに収まるMAMORIO CARDなどをリリースしました。
MAMORIOはスマートフォンと連携し、MAMORIOをつけたアイテムが持ち主の手元から離れると通知します。外出時の財布の持ち歩きに不安がある方には、ぜひMAMORIOを利用していただきたいです。これまでMAMORIOは、「なくすを、なくす。」をミッションに、落とし物に関するリードカンパニーとして、落とし物防止に資するソリューションを提供してきました。持ち物やバッグの中身が変わるアフターコロナ時代にも、MAMORIOの提供する価値が皆さんの大切なモノを守れることを願っています。